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仙台高等裁判所 昭和56年(ラ)46号 決定 1981年8月24日

抗告人 山本直

相手方 服部大樹

右法定代理人親権者母 服部美保子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

二  よつて検討するに、記録によれば、本件扶養料請求申立事件の背景となる実状と経緯については原審判の理由に記載のとおりであると認めることができ、この認定を動かすに足りる資料はない。そして右事実に徴すれば、抗告人と相手方母との間に昭和五三年六月九日成立した養育料一ヵ月二万円支払の和解および右和解後に生じた双方の事情を綜合勘案して、相手方が抗告人より受けるべき扶養料を相手方が小学校に入学した昭和五五年四月以降月額二万九、〇〇〇円と定め、抗告人は相手方に対し金四〇万六、〇〇〇円を即時に並びに昭和五六年六月以降相手方が成人に達するまで毎月末限り金二万九、〇〇〇円を支払うよう命じた原審判は相当である。

三  抗告人は、抗告人の昭和五五年一月ないし八月における定常的な月収は一七万八、二八八円ないし一七万九、八九八円であり、同年四月分は超過勤務手当一万二八〇円が加算された特異的な月収であるから、これを基準として扶養料を算出するのは不当であると主張する(別紙抗告理由3の前段)。

然し年間を通じて行われる扶養についての扶養料の算定は扶養義務者の年間収入を基準とすべきであるから、月々定額の扶養料の支払を命ずる場合は年間収入を一二ヵ月で割つた一ヵ月平均月収を基準とするのが合理的であるところ、記録によれば、抗告人の昭和五四年度における給与所得控除後の金額は二三〇万二、八八一円、一ヵ月平均月収は一九万一、九〇七円であると認められ、昭和五五年度分のそれについては資料の提出がないため不明であるが、抗告人が国家公務員である○○大学文部教官であることからすれば、同年度における抗告人の諸手当(超過勤務、勤勉、期末の各手当)を含む年間収入を一二ヵ月で割つた一ヵ月平均月収が抗告人の主張する同年一月ないし八月の定常的な月収はもとより超過勤務手当を含む同年四月分月収をも上回わるものであろうことは推認するに難くない。してみれば扶養料算出の基準として超過勤務手当を含む昭和五五年四月分月収を採つたからといつて抗告人に何らの不利益を及ぼすものではなく、抗告人の立場からこれを不当として非難すべき理由はない。

次に抗告人は、前記和解は相手方の養育料を抗告人と相手方母とが折半して負担する趣旨で成立したものであるところ、抗告人の昭和五五年四月分月収を基準に算出した相手方の受けるべき生活程度五万三、六九九円の折半額は二万六、八四九円であるから、これを超えて相手方の扶養料を月額二万九、〇〇〇円と定めることは前記和解の趣旨に反して不当である、また抗告人は相手方母に対し昭和五六年五月まで前記和解に基づく養育料を支払つているのにこれを差引き計算せず、抗告人に対し昭和五五年四月以降昭和五六年五月まで月額二万九、〇〇〇円の扶養料合計四〇万六、〇〇〇円の即時支払を命じたのは不当であると主張する(抗告理由2および同3の後段)。

然し、原審判も述べるとおり、前記和解は抗告人と相手方母との間に成立したもので、抗告人と相手方との間に直接の権利義務を生じせしめたものではないから、右和解が養育料折半の趣旨で成立したとしても相手方に対しては何らの拘束力を有せず、単に扶養料算定の際しんしやくされるべき一つの事由となるに過ぎないし、また抗告人が相手方母に対し前記和解に基づく養育料を支払つたからといつて当然に本件扶養審判において差引計算をしなければならぬ筋合のものでもない。

四  その他記録を精査するも原審判にはこれを取消変更すべき違法、不当の事由は存在しない(なお別紙抗告理由1に記載されている点は抗告人においてもこれを問題とすることは本意でないというのであるから、当裁判所も右の点については判断を示さない)。

よつて原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小木曽競 裁判官 伊藤豊治 井野場秀臣)

抗告の趣旨

原審判の主文を、

「相手方は申立人に対し、扶養料として金五、〇〇〇円を即時に並びに昭和五六年六月以降申立人が成年に達するまで毎月末日限り金二万五、〇〇〇円を株式会社○○○銀行○○○支店の申立人名義普通預金口座(口座番号〇〇五九二三四)に振り込んで支払え。」

と訂正し、かつ審判理由末尾の、

「なお、相手方は、現在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これを許さないとするものではない。」

を削除することを求める。

「なお、相手方は、現在、和解調書による養育料を支弁中であるが、それと本件審判とは別個の関係にあるから、本件においてはそれとの差引計算はしないが、これを許さないとするものではない。」

然るに、抗告申立人は次の三つの理由により、この審判を不服とし抗告する。

1 抗告申立人は、抗告相手方母と離婚後、昭和五三年一〇月二四日白木水枝と婚姻し、昭和五六年二月一〇日長男(俊直)を儲け収入は抗告申立人の大学からの給与のみである。上記の、抗告申立人(審判相手方)の月収と、抗告申立人および抗告相手方(審判申立人)のみの消費単位に基づく算定方式は抗告相手方(審判申立人)のみの被扶養権を尊重し、離婚から扶養請求に至る一連の申立事件に全く無関係の水枝(妻)および俊直(長男・・・生後四ヶ月)の生活権、被扶養権を脅かすものであり、正当な算定方式としては甚だ不適当である。しかし、このことについてここで問題提起をすることは、いたずらに時間と労力を費やし、本事件の決着を遅らしめ、延いては抗告相手方(審判申立人)の生活にも影響を及ぼすので、抗告申立人の本意とするところではない。今後の専門家の慎重なる議論を待ちたい。

2 仮に上記算定方式が妥当であつたとしても、抗告申立人(審判相手万)と抗告相手方(審判申立人)の双方が扶養料算定の前提とし、かつ仙台家庭裁判所もこれを認めている「父母による扶養料の切半負担」という点を考えれば、扶養料月額は、上記算定式により得られた生活程度五三、六九九円の半額すなわち二六、八四九円となり、審判のいう二九、〇〇〇円とはならない。

3 仮に上記算定方式が妥当であつたとしても、同式中に代入された抗告申立人(審判相手方)の月収一八万九、一六八円は昭和五五年四月分のみの月収であり、昭和五五年一月より同年八月までの抗告申立人の給与支給明細に示される如く、定常的な月収ではなく、同年三月に行なわれた大学入試の監督業務に対する超過勤務手当一〇、二八〇円を含む特異的な月収である。しかも、定常的な月収ではなく、特異的な月収に基づいて扶養料月額を算出しなければならない明解な理由が審判の中に記されていない。従つて上記算定方式の月収としては定常的な月収一七八、二八八円乃至一七九、八九八円を代入すべきであり、その結果として当然扶養料月額が審判とは異なる。

金額の算定方式を決定するまでは様々の法的議論がなされて然るべきであるが、一旦、算定方式が決定した後は、その方式に基づいて厳正に計算がなされるべきである。(さもなければ、それまでになされた算定方式を決定するための議論そのものが否定されることになる。)したがつて抗告申立人は次のように、扶養料月額を算出する。

月収17万8,288円×(1-0.2)×(55(審判申立人)/100(審判相手方)+55(審判申立人)) = 50,610円(円未満切捨)

50,610円÷2(切半負担) = 25,305円(円未満切捨)

よつて、扶養料月額は端数を切り捨てて二万五、〇〇〇円が妥当であり、審判のいう二万九、〇〇〇円には明確な根拠がない。

さらに、昭和五五年三月からの扶養料月額を二万五、〇〇〇円とし、審判の但し書きに記されているように、既支払額との差引計算を許せば、昭和五六年五月までに支払つた扶養料累積額の不足額は五、〇〇〇円となる。従つて審判主文中、「扶養料として金四〇万六、〇〇〇円を即時に」を「扶養料として金五、〇〇〇円を即時に」と訂正し、審判末尾の「なお、相手方は、現在・・・・・・これを許さないとするものではない。」の箇所を削除することを求める。

以上の如く抗告する。

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